2021年11月
徳島県は、日本で初めてアドプト制度を導入した県です。神山町(かみやまちょう)を活動拠点とする清掃団体が1998年に、「道路を清掃するボランティア団体を発足したい」と行政に相談したのが発端でした。徳島県では、「自分たちが使う道路は、自分たちできれいにしよう」というアドプト制度の理念に共感。道路への愛着や郷土愛の醸成、コミュニティ内の連帯感を深めることにつながるという考えから、1999年から県が管理する道路を対象としたアドプト制度を導入しました。2001年には、道路に加えて、公園・港湾・河川・海岸を対象としたアドプトも誕生。制度導入から20年以上たった現在では、河川64・道路336・港湾14・公園10・海岸9のアドプト団体が活躍しています(令和2年度実績)。500人以上の大規模な団体から、数人で活動している小さな団体まで、活動団体はさまざま。活動団体に対しては、登録時にアドプト制度について説明して覚書を交わし、登録した団体には、サインボードの設置やボランティア保険の加入に加え、ゴミ袋や清掃道具・花の種の支給などを行うほか、活動中に発生した困り事に対しては県を7圏域に分けた各出先機関の担当部署が窓口となりアドバイスを行います。
日本で最初のアドプト「神山町」
アドプト事業は元々清掃活動がメインでしたが、活動団体から「自分たちで川づくりをしたい」という要望が出たことから、2011年より「かわ普請」事業を開始。堤防の治水機能に支障が出ない範囲で、花壇やベンチの設置、植栽も可能となりました。今では、アジサイや桜の新たな名所となって、コミュニティで愛されているスポットもあるようです。
吉野川の支流「新町川」
徳島県がアドプト制度を導入する以前から、県内ではボランティア清掃団体が活動していました。その中の一つが、「新町川を守る会」です。新町川は、徳島市内中心部を流れる吉野川の支流。かつては、大型ゴミの不法投棄が目立つなど非常に汚れた川でした。その当時も地元商店街を中心に自主的な清掃活動が行われていましたが、新町川をもっときれいにしたいという有志が集まり、1990年3月に「新町川を守る会」が誕生しました。発起人の1人である理事長の中村さんは、「ゴミを捨てるなという言葉は、あまり好きではないんです。ゴミが捨ててあったら、『捨てるな』と言わずに黙って拾う。管理するのではなく、掃除をすればいいんです」と語ってくださいました。
活動を継続するには、若い人が夢を感じられるような、清掃だけではない楽しみ、遊び心が必要だと考えた中村さんたちは、川を舞台にしたイベントを展開。魚釣り大会やラブリバー大会などを開催しました。現在は毎月最終金曜日に、親水公園で水際コンサートを開催。楽器の演奏や踊りの披露など内容はさまざまで、寒中水泳や中秋の名月観賞など季節の行事も取入れています。川を舞台にしたイベントを開催すれば、参加者は川に関心を持ちます。川に関心や愛着を持てば、その川が汚れていればきれいにしようという思いが生まれるのではないでしょうか。清掃活動とイベントは、「川をきれいにしよう」という思いを育む両輪となっています。
さらに発展して、1992年からは、新町川を遊覧する屋形船の運航を始めました。現在は6隻の遊覧船が「ひょうたん島クルーズ」として運航しており、観光資源としても注目されています。
新町川両国橋に設置された、遊覧船乗り
川からの街づくりの拠点」として
注目されている川の駅
新町川を守る会の清掃活動は毎月3回。小型ボートに乗船し、船の上から川に浮かんでいるゴミを拾います。毎月1日と第3土曜日は、雨天決行で必ず実施しています。活動参加者が集まらないと悩む団体も多いですが、新町川を守る会では毎月20人以上が参加。実施日が固定されているため予定が組みやすいのか、告知をしなくても参加者が集まってくるのだとか。地域貢献したい地元企業や中高生、遠方から訪れる親子連れもいます。継続の秘訣は、参加者が1人しかいなくても天気が悪くても実施すること。「何のために活動しているのか」を明確にし、目的を持って継続的に活動していれば、賛同者は自然と増えるのだと中村さんは語ります。
船に乗り込み、川の中からゴミを拾います。
船を岸に寄せ、陸側からでは拾えない
ゴミを回収します。
10年以上前に比べると随分減りましたが、家庭ゴミやビニル袋などが多いのだそうです。ゴミ拾いは日常的に行えますが、船に乗ってゴミを拾うのは何か新鮮なワクワク感があります。船に乗るのを楽しみにしている子どもたちもいて、中には親子2代で参加している人もいます。高校2年生の池田優希さんが活動に初めて参加したのは、幼稚園のころ。両親と一緒に参加して以来、現在まで定期的に活動に参加しています。
集めたゴミは活動終了後、徳島県の委託業者が回収してくれます。
「清掃活動は楽しいし、いろんな人と話しができるのも楽しいです。学校と家以外の、もう一つの居場所みたい」と池田さん。もともと船が好きだったこともあり、昨年船舶免許を取得しました。まだお客さんを乗せる遊覧船は運転できませんが、清掃活動の時は船の運転手としても活躍しています。
取材させていただいた11月20日(土)の清掃活動には、徳島市立図書館のイベントとして3組の親子が参加しました。SDGsについて考えるイベントの一環として、図書館が参加者を募ったものだそうです。図書館スタッフが以前清掃活動に参加したことがあったことから、コラボ企画として実現しました。
最近は若い世代の参加者が増えているのだそうです。
救命胴衣を着用し網を持ってボートに乗り込んだ子どもたちは、ゴミを見つけるたびに歓声をあげ、楽しそうにゴミを拾っていました。参加した小学校5年生の男の子は「ゴミ拾いは楽しかった。他の人と交流もできるし、誰でも参加できるのが良いと思う」と笑顔。楽しく活動できたようです。 清掃活動には定期的に参加する人もいれば、初めて参加する人もいます。しばらく参加していなかった人が、「久しぶりに来ました」と顔を出してくれることもあるのだとか。初めてでも参加しやすく、一度集まった人が根付く環境づくりも重要です。
新町川沿いにはベンチも多く、
遊歩道や散歩道としても愛されています。
国道192号の植樹帯や新町川親水公園の
花壇を整備しています。
観光客や市民に気持ちよく過ごしてもらいたいという思いから、2014年11月からは、植樹帯や花壇の整備にも取り組んでいます。1・5・9月の第3土曜日に、花壇に花を植えます。1回に付き約3万5000株の花の苗が必要ですが、苗代は協力企業の寄付でまかなっています。新町川の遊覧に使用している遊覧船(屋形船や小型ボート)も、企業や団体から寄付されたもので、遊覧船にはスポンサー企業の看板が取り付けられています。地元密着型の企業として地域に貢献したいが、何をすれば良いか分からないと困っている企業は多いので、活動内容をしっかり伝えれば応援してくれるのだそうです。「この団体の活動にお金を出してもいい」と思ってもらえるような活動をし、賛同者を増やしながら発展させていくことが、活動を充実させ継続させるポイントのようです。
(注)本文中では、徳島県で使用している「アドプト」の表記といたしました。