2019年8月
永田川カエル倶楽部は、2003年に広島県江田島市に発足した地域活動団体です。発起人は江田島市で農業を営む、池田朝雄さん。「自分は子どものころ、川や海で思いっきり遊んでいた。しかし最近は、子どもたちが外で遊ばなくなった」と感じたそうです。そこで知り合いの親子に「地元を流れる永田川で、子どもを遊ばせてみませんか」と声を掛けたのがきっかけです。最初に集まった親子は、1組だけでした。永田川で遊びながら、水質調査や生き物調査、清掃活動などを行っているうちに、活動内容が口コミで広がり、徐々に参加人数が増えて来ました。参加人数が5~6人になった2005年、広島県アダプト活動のラブリバー団体として登録。以後、活動の場所を永田川だけでなく永田川流域の森・里・川・海に広げ、地域環境の保全と再生を目指し、毎月1回活動しています。
せとうち海援隊は、永田川カエル倶楽部の活動の一環として2015年3月に発足しました。もともと同倶楽部では、永田川河川干潟の清掃活動を実施していたのですが、環境省から「海岸の漂着物調査に協力してほしい」という依頼を受け、河口から少し離れた鎌木海岸でペットボトルを中心とした漂着物の調査と、海岸の清掃活動を行うことになりました。環境省からの依頼期間が終了した後も、引き続き継続して清掃活動を継続しています。
せとうち海援隊の主な活動は、鎌木海岸の清掃です。参加するのは、永田川カエル倶楽部の子どもたちとその保護者。鎌木海岸の約50mを、1時間かけて清掃。大きな流木などは小型のチェーンソーで小さく切り、ビニール袋やペットボトルなどは防水手袋をして手で拾います。細かいごみが多い場合は、熊手で一カ所にまとめてから分類します。子どもたちは、時折貝殻を拾ったり、カニを見つけたりしながら、ごみ拾いを楽しんでいるようでした。拾ったごみは、自然ごみ・一般ごみ・漁業関係など13種類に分別。種類ごとに重さを測定し、江田島市が市が所有するトラックに積み込んで処分場に運び、処分します。
参加者は毎回10~15人程度ですが、その大半は小学校低学年の子どもです。以前は子どもだけの参加が多かったのですが、ここ5年くらいで保護者同伴の参加者が増えたのだとか。小さいころから清掃活動に参加していれば、「海にごみを捨てよう」と思わなくなります。また集めたごみを分別して捨てるため、「ごみは分別して捨てる」という意識が高まり、可燃ごみ・不燃ごみ・再生ごみなどの知識も自然と身につきます。
永田川カエル倶楽部に「中年生になったら卒業」という決まりはありませんが、中学生になると部活動などで忙しくなるため、どうしても参加しにくくなり、メンバーは5~6年で入れ替わります。しかし中学生や高校生になっても、活動に参加する子はいます。そういったお兄さん・お姉さん的存在のメンバーが中心となり、小さい子どもたちの面倒を見ることで、倶楽部内の結束も高まっています。「祖父母の気持ちになって声をかけることが、子どもに参加してもらうポイント」と池田さん。親ではない地域の大人に見守られながら行動することで、自主性と自立性の育成にもつなるそうです。
柳生くん(中学校3年生)は兄と従弟と一緒に、8月10日に行われた鎌木海岸の清掃活動に参加しました。3歳のときから永田川カエル倶楽部のメンバーとして活動しており、中学生になった現在も活動を継続しています。「みんなで活動するのは、楽しいです。小学校低学年くらいの子が多いですが、小さい子の面倒を見たり遊んだりするのも好きなので、中学生になってからもずっと続けています」とのこと。永田川カエル倶楽部の活動は「全部楽しい」のだそうです。
清掃作業
分別作業中
鎌木海岸のある江田島は、瀬戸内海に浮かぶ比較的大きな島です。川から流れてきたごみもありますが、その多くは海に浮かんでいたものが集まった漂着ごみ。海に浮かんでいるごみが、どこに、どれくらい流れ着くかは、季節や風向きによって異なります。加えて、海には潮の満ち引きがあります。例えごみが浮かんでいても、干潮時でなければごみ拾いはできません。このため代表である池田さんが、風向きや潮位を調べて1年間の活動日時と場所を決定。「この時期はあまりごみが集まらないので、軽トラで充分」「この時期は漂着物が増えるので、2トントラックでなければごみが乗り切らない」など、トラックのサイズも調整します。春から夏にかけては季節風の関係で多くの漂着物が出ますが、秋になると漂着物が減少し、冬になると潮位の関係で海岸のごみ拾いが難しくなります。このため春と夏は鎌木海岸のごみ拾い、秋は永田川河口干潟のごみ拾い、冬は鎌木海岸の手前のごみ拾いと植物の保護を行っています。
Before
After
広島県はかきの養殖で有名ですが、中でも江田島市は県内有数のかき生産量を誇ります。江田島湾には多くのかきいかだが浮かんでおり、かきの養殖は市の主幹産業となっています。このため鎌木海岸には、かきいかだから外れた発泡スチロール製の浮きブイ(フロート)や、かき養殖用のプラスチック製のパイプが漂着します。流出した漁具による環境問題は深刻ですが、市の経済や漁業関係者との兼ね合いもあり、センシティブな問題となっています。かき業者にとってフロートやパイプは大事な資材ですから、海上流出は経済的損失になります。鎌木海岸に漂着した漁具に関しては、パイプだけを分別して漁協に提供。リサイクルできるものに関しては、漁協で再利用しています。パイプの漂流による環境問題を提言するため、2018年から生分解性プラスチックを用いたかき養殖用パイプの研究や、広島県漁連が窓口となったフロート処理の取り組みも行われています。
参考URL: https://www.spf.org/opri/newsletter/447_2.html?latest=1
せとうち海援隊の活動には、江田島市役所地域支援課の職員も参加します。地域支援課は、ごみの分別やごみの処理を担当する部署でもあるため、鎌木海岸の漂着物の処理に協力しています。池田さんから提出される1年間の活動計画表をもとに、江田島市が市所有のトラックの利用を予約。活動には毎回1~2人の職員が参加し、一緒にごみを集めます。集めたごみは、トラックに積み込み処分場へ運搬。ごみの処分費用は、市が負担しています。「漂着物の回収や処理も、地域支援課の業務の一つ。業務の一環として、清掃活動に参加しています」と、地域支援課の御崎さん。ごみの分別について考えてもらう、出前講座も行っています。同じく地域支援課の本家さんは、「意図的に捨てられたごみだけが漂着するわけではないので、漂着物を完全に無くすのは難しい部分があります。しかし処分しなければたまるだけですから、民間と市が協力して対応しています」と語ります。
永田川カエル倶楽部の活動が始まって、今年で16年。池田さんは2030年、自身が80歳になるまで活動を続けることを目標にしています。最近「後継者はどうするのですか?」と質問されることが増えたそうですが、池田さんは「自分が引退したら、永田川カエル倶楽部は解散すればいい」と考えています。池田さんは、誰かに頼まれて活動を始めたわけではありません。誰かに頼まれて仕方なく始めたことを、長続きさせることは難しいでしょう。「後継者は、必要ありません。後継者を決めれば、その人に何かを背負わせることになる。人に何かを背負わせてまで、活動を継続する必要はありません。後継者を無理矢理見つけてきても、活動は続きませんよ」と池田さん。永田川カエル倶楽部は、2030年で発足27年となります。四半世紀も地域活動を続ければもう充分、あとはやりたい人がやればいいと笑う池田さんの満足そうな笑顔が印象的でした。
日本は島国ですから、多くの県が海に接しています。また地球の約70%は、海で覆われています。子どもたちに豊かな自然と美しい海を残すことは、大人の使命と言えるかもしれません。今回の活動の舞台となった鎌木海岸は、小さなカニや貝がいる美しい海でした。しかし残念ながら、海岸には10kgを超える漂着物が流れ着いていました。清掃活動中に小学校低学年の子どもたちが貝殻拾いに夢中になっていると、お兄さん役の中学生が「貝殻じゃなくて、ごみを拾わないと」と嗜めていました。子どもたちにはごみではなく、きれいな貝殻を拾ってほしいと思います。
国内では多くのアダプト団体が活動を行っています。たくさんの人がアダプト活動に参加することが、きれいな海を残す「海の美化活動」に貢献しています。
制度名:せとうち海援隊
導入自治体:広島県環境県民局 環境保全課
URL: https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/eco/c-kaien-old-index.html
“CHANGE FOR THE BLUE”アダプト・プログラム特別助成事業~海と日本PROJECT~
URL: https://www.kankyobika.or.jp/adopt/subsidy-for-adopt/apblue