2023年3月
くらげれんごうは、福岡県福津市(ふくつし)の福間海岸を拠点に活動している団体です。最大の特徴は、主催者が子育て世代のママ達ということ。ビーチクリーン(海外清掃)活動の参加者も大半は若い世代で、特に小さい子供を連れた家族や学生などが目立ちます。ではなぜ、親子連れや若い世代が、積極的に参加するのでしょうか。それには、くらげれんごうが誕生した経緯が深く関わっています。
くらげれんごうは、海が大好きなママ2人の「海の楽しさを伝え、海が好きな人を増やしたい」という想いにより2019年に誕生しました。海で楽しく遊び、海遊びの情報を広く発信することが活動の目的でした。「海が好きな母の集まりだから、くらげ(海母)れんごうなんです」と、隊長の山崎唯さん。海遊びの情報を動画配信するなど、海を満喫していたそうです。
≪福間海岸の様子。目立ったゴミは落ちていないよう見えます≫
福岡県福津市に位置する福間海岸は、白くきめの細かい砂浜が広がる美しい場所。夏場は海水浴場として賑わい、スタンダップパドルやヨットなどマリンスポーツの拠点としても注目されています。また、アカウミガメの産卵地としても知られており、福津市はアカウミガメの保護活動に力を入れています。海岸美化清掃に対する熱意は地域にも広がっており、サーフショップ店や地元の人が主催するビーチクリーン(海岸清掃)活動も定期的に開催されています。このため、福間海岸には、ペットボトルや空き缶などの目立つゴミはほとんど見当たりません。くらげれんごうのメンバーも当初は、福間海岸が汚れているとは思っていなかったそうです。
≪木や貝殻などに、プラスチックの破片が混じっています≫
きっかけとなったのは貝殻拾いでした。福間海岸には、薄いピンク色が愛らしい桜貝の貝殻が、たくさん落ちています。「桜貝を拾って、アクセサリーを作ろう」と貝殻を拾っているとき、貝殻や砂に混じって小さなゴミがたくさん落ちているのに気付いたのだとか。
≪親子で参加する人も多くいます≫
これが、近年地球規模で問題になっているマイクロプラスチックをはじめとした海洋プラスチックごみでした。貝殻拾いと一緒にこれらのプラスチックごみも拾おうと始めたのが、「日本一ハードルの低いビーチクリーン」です。コンセプトは「自分の好きなスタイルで、海を楽しむこと」。遊びたくなったら海で遊び、自分の好きなスタイルで海のゴミを拾います。海を守ろうと肩に力が入った人が清掃活動を主導するのではなく、海が好きなママたちが楽しみの一つとして海岸清掃をしているため、子どもを海で遊ばせたいママも参加しやすいのだそうです。
≪貝殻やカニなどを見つけるのも楽しい!≫
≪海で遊ぶ子供たち≫
活動は毎月1回。福間海岸がメインですが、志賀島(しかのしま)や宗像(むなかた)の海岸でも活動を行います。活動場所は参加者が来場しやすいよう、駐車場が広くトイレが整備されている場所を選んでいるのだとか。活動時間は10:00~14:00ですが、参加者は好きな時間に訪れて好きな時間に帰るため、開始時間は比較的アバウト。「波の音を聞きながら無心でビーチクリーンをすると、心身ともにリフレッシュできる」という男性や、「拾ったプラスチックごみを見て、これは何だろう?と想像するのが楽しい」という中学生もいました。
≪ボランティア活動証明書も発行しています≫
マイクロプラスチックは小さく指で拾うのが難しいため、ザルなどで砂をすくい、ふるいにかけて砂とゴミを分類します。しかし、この方法だと多くのゴミは拾えません。くらげれんごうでは、野菜が入っている袋の口に金属の枠を通した「くらげ5号」を開発。砂をすくうと網の目から砂だけが落ち、袋の中にゴミが残ります。効率的に拾えるだけでなく、拾ったゴミが飛んでいかないのもポイント。他のビーチクリーン活動団体に無料でレンタル(送料のみ負担)する予定もあり、活動の輪を広げています。
≪マイクロプラスチックを効率よく拾う≫
≪「くらげ5号」で砂をすくいます≫
≪砂をふるうとマイクロプラスチックが
網の中に残ります≫
≪拾ったマイクロプラスチック≫
拾ったプラスチックは、ゴミではなく素材。貝殻などと組み合わせ、レジン(樹脂)で固めてチャームやアクセサリーにします。完成したアイテムは、友達に見せたくなるような、思わずほしくなるような可愛いものばかり。活動の参加者に「参加してくれたお礼」としてプレゼントするほか、小学校やショッピングモールでのワークショップも行っています。チャームを作れば楽しいし、作る過程で海のゴミやマイクロプラスチックのことも学べて、一石二鳥。「そのチャーム、かわいいね」と友達に話しかけられれば、自然とマイクロプラスチックのことが話題となるため、子どもたちの中で環境教育の素地が養われていきます。
≪参加者には、拾ったプラスチックごみを使ったチャームをプレゼントしています≫
≪拾ったプラスチック片や漁網、貝殻でつくったアクセサリーは、ネットショップなどで販売します≫
くらげれんごうの活動のもう一つの柱が、環境教育です。
くらげれんごうでは、2021年、糸島市立前原南小学校5年生(当時)の授業で「二丈(にじょう)の海」を舞台とした環境教育を実施しました。小学校からほど近い場所にある二丈の海は、子どもたちにとって親しみのある場所。子たちは、まずは海洋ゴミについて学び、二丈の海で一緒にビーチクリーンをします。事前に「拾ったプラスチックごみで、チャームを作るよ」と伝えてあったこともあり、子どもたちは真剣そのもの。ゴミ拾いというよりチャームの材料集め・宝探しの感覚で、カラフルなプラスチックごみを探していました。作ったチャームはお気に入りを1つ自分の分にし、残りはくらげれんごうに贈呈。「みんなが作ったチャームは、ビーチクリーン参加者にプレゼントされることで、海をきれいにする活動に役立ってくれるよ。ありがとう」と伝えると、子どもたちはみんな誇らしそうでした。担任の大川和樹先生は「小さなプラスチックごみは普通のゴミと違い普段は意識することがないので、子どもたちにとっては新鮮だったようです。宝探しみたいで楽しかった、また拾いたいという子が多かったですよ」と語ってくださいました。
「子どもは、自分の知っていることを、友達や大人に教えてあげるのが大好き。教えてあげているときの顔や、自分が役に立っていると感じたときの顔は、とてもキラキラしています。家に帰って海のプラスチックごみについて家族に教えてあげるときの顔は、きっと誇らしげだと思いますよ」と、山崎さん。学んで、体験して、作って、貢献するという活動サイクルは、環境教育に最適なのではないでしょうか。
環境教育の対象は小学生から大人までさまざまですが、最近は中学生や高校生向けの依頼も多いのだとか。その際に気を付けているのが、「悪者を作らないこと」です。福岡県の海岸には、海流や風の関係で中国や韓国からの海洋ゴミが漂着しやすくなります。外国語のゴミが漂着しているの目の当たりにすると「外国のごみで日本の海が汚れるなんて、、」と思ってしまいがち。しかし、日本語のゴミも外国に流れ着いている事実も紹介するなどして「どこの国のゴミとかではなく、人間のゴミとして拾える人が拾っていこう」と声かけをしているそうです。
また、落ちているごみを見て「ポイ捨て」への怒りがわく参加者も多いそうです。しかし、海洋ゴミは、ポイ捨てされた物ばかりではありません。海洋ゴミの中には、マヨネーズの容器や壊れた洗濯バサミなど、意図的に捨てたとは思えないゴミが多く含まれていることがわかります。家庭ごみが風で飛んだかもしれない、家庭のバルコニーから雨で流れたかもしれない、気付かないうちに川に落ちたゴミが、海に流れついている可能性もあるのです。劣化したプラスチックや人工芝のかけらなど、私たちの身近にあるものが知らないうちに海に流出し、マイクロプラスチックになっていることに気付くと、「マイクロプラスチックを減らすために、学校などの人工芝のかけらをこまめに掃除する」「洗濯バサミは、ステンレス製にする」など、子供たちからも自分でもすぐにできる行動へのポジティブな意見が出るように。「海洋ゴミは悪意の結果ではなく、気づかないうちに自分が出したものかもしれない」と、課題を『じぶんごと』にすることが大事なのだそうです。
2021年には、ゴミ拾いをする人とそれを応援する人をつなぐ「YUIMAALU(ユイマール)」が誕生しました。屋外のゴミ拾って写真を投稿するとポイントがたまり、たまったポイントに応じて協賛企業の商品と交換できるアプリです。ポイント交換は対面で受け取るサービスや商品のほか、宅配やオンラインで受け取れるものもあるため全国どこからでも参加でき、海に行かなくても海洋ゴミを減らすことができます。最近注目されているポイ活として、誰でも参加できる「海に行かなくてもできるビーチクリーン」として、全国から注目を集めています。
(注)「マイクロプラスチック」は、一般には「直径5mm未満」のものを指す用語ですが、本文中では、「微細なプラスチックごみ」を指して、取材先での呼称の仕方を採用して記載しました。