2018年2月
2月18日(日)伊豆市修善寺にて、毎月恒例の「第76回修善寺大掃除」が開催されました。主導しているのは、静岡県立伊豆総合高等学校の生徒会。2011年秋より毎月1回活動しています。この日の参加者は、同校の生徒会・吹奏楽部、バトミントン部をメインに約70名。老人クラブ(修善寺駅前つたの葉会)や社会福祉協議会など、地域の人も加わりました。
活動開始は10時ですが、9時30分ごろから生徒たちが各自で集合。友達同士でおしゃべりをしながら、開始の合図を待ちます。その後生徒会メンバーが開会を宣言。ゴミを入れるためのバケツとトングを配布し、「3グループに分かれてください」と指示を出します。グループの分け方は「適当に分かれてください」というアバウトなものですが、それでも友達同士が固まってパっと分かれるのが高校生らしいところ。生徒会メンバーが先頭にたち、3グループがそれぞれのルートで、約1時間ゴミ拾いを行いました。ゴミ拾いというと、下を向いて黙々と…というイメージがありますが、そこは高校生。おしゃべりをしながら、楽しそうにゴミを拾っていきます。フェンスを乗り越えたり河川敷の草むらに入ったりと、アグレッシブな動きが目立ちました。
一緒に参加した老人会のメンバーから「生徒さんはとっても元気。自分たちなら『あそこまで行くと危ないから…』と諦めてしまうような場所のゴミも、拾いに行ってくれる。若い人から、パワーをもらっているような気がします」という声が上がるほどです。老人クラブではこの修善寺大掃除に全面協力していて、毎月数人が当番制で参加しているとこのこと。生徒たちも「地域の人と交流することができる貴重な機会」と捉えているようです。
入学当初から生徒会として参加している萱間瑠夏さん(2年生)は、「高校に入学した時には先輩たちが活動をしていたので、この活動は生徒会の伝統だと思いました。先輩たちと一緒に参加し、参加する中で活動の流れを覚えたので、引き継ぎが大変だったという思いはありません。私も、後輩たちにこの活動を伝えたいと思います」と語ってくれました。中学生時代はゴミ拾いをした経験もなく、この活動の存在も入学するまで知らなかったとのこと。中学生にこの活動を知ってもらうようにPRするのが、今後の課題だそうです。
ゴミ拾い終了後は、班ごとに反省会を行います。自分が何を感じたかを大勢の前で発表することに恥ずかしそうな生徒もいましたが、「ゴミ拾いは大変だと思っていたけれど、みんなで一緒にやったら楽しかった」「前回より積極的に参加できた」という声が聞かれました。最後に、参加してくれた地域の人に表彰状を贈呈して、この日の活動は終了。50リットルゴミ袋に2つ分ほど集まったゴミは「可燃」「不燃」「リサイクル」の3種類に分別して学校に持ち帰り、学校のゴミと一緒に処分するのだそうです。終了15分後には、フェイスブックに「今日の活動報告」がアップされ、活動後の課題をLINEグループで共有するなど、ネットを駆使したアプローチも、高校生ならではだと感じます。
修善寺大掃除の仕掛け人が、NPOサプライズの飯倉清太さんです。飯倉さんが地域活動に目覚めたのは、2008年のことでした。「自分が経営する店の前にゴミが捨ててあったので、ブログに『ゴミが捨てられている』とつぶやいたんです。すると『そんなこと言ってないで、お前が拾え』と言われました。確かにその通りだなと思って、ゴミ拾いを始めました。最初は一人でしたが、だんだん仲間が増え、地域づくりについて考えるNPOができました」。活動する際に課題となったのが、「地域と若者の距離」でした。修善寺で「地元の高校」といえば「静岡県立伊豆総合高等学校」ですが、この高校に通う生徒は地元の子だけではありません。箱根鉄道を利用し周辺の3市1町から通学しているため、修善寺のことを知らない生徒が多いのです。3年間通学しているのに駅と学校を往復するだけど、修善寺のことを知らないのはもったいない。高校生にも地域づくりについて考えてほしいと考えた飯倉さんは、学校と接点を持ちたいと考えました。
ちょうどそのころ、地元企業から「新商品のパッケージに使いたいので、萌えキャラを募集したい」という要望がありました。そこで全国から集まった「萌えキャラの選考」を静岡県立伊豆総合高等学校の生徒会に依頼。そこで生まれた縁をつないで、生徒会の顧問の先生に「一緒に清掃活動をやりましょう」と提案したのです。学校側には戸惑いもあったようですが、1回、2回と参加するうちに「地域の人とのコミュニケーション」「自主性の育成」「自己肯定感の育成」など、ゴミ拾いが生徒自身の成長につながると実感。積極的に取り組むようになったそうです。実は飯倉さんが主導したのは、最初の数回だけ。第4回からは生徒会が活動を引き継ぎ、生徒会の部活」として活動を継続しています。
活動中に参加者が着用しているビブスは、NPOサプライズがプロデュースし地域の伊豆中央ロータリークラブが作成したもの。チャックをしめるとエコバックになるユニークな仕様で、伊豆半島がプリントされています。せっかく清掃活動をしているのに、他の人から「あの人たちは、何をしているの?」と思われるようでは意味がありません。みんなで頑張っているという統一感を出し、周囲に活動をアピールするためにも、ユニフォームは重要だというのが、飯倉さんの思いです。
アダプト活動に取り組む学校からは、「生徒の自主・自律につながり、教育面でのメリットも大きい」との声が寄せられています。ほぼ毎回活動に参加している有馬祥哲校長は、「わが校のコンセプトは、地域と積極的に関わり、地域の人材を育成することです。地域活動に参加することで社会性が身に付きますし、さまざまな世代の方と関わることができます。『あの子は随分ハキハキしゃべるようになったな』『周囲に気を使えるようになったな』と、生徒たちの成長を感じる場面が多々あります」と、語ってくださいました。この活動を通して、地元企業への就職が決まった生徒もいるそうです。県立高校でありながら伊豆市とのパイプもでき、学校のPRにもなっています。
修善寺大掃除に毎回たくさんのメンバーが参加するポイントの一つに、「部活単位での参加」があります。ボランティア活動は本来、参加できる時に参加するのが理想です。しかし最近の高校生は忙しく、部活に所属している生徒は「土日も朝から練習」というケースが珍しくありません。このため部活単位で参加し、部活動の一環として活動するのがベターなのだとか。月に1回実施されるこの清掃活動は年度初めに生徒会が「今年の清掃活動日」を発表するため、それに合わせて各部がスケジュールを調整して参加しているようです。有馬校長が朝礼などで「清掃活動は年に12回あるので、1回は部活単位で参加しましょう」と呼びかけていることもあり、ほとんどの生徒は1年に3〜4回は参加しているそうです。
アダプト活動参加校が増える中で、活動が継続できず中断してしまう学校も出ています。中断の理由としてよく耳にするのが、「中心となって活動していた教員が異動になった」というもの。主導する人がいないから活動を辞めてしまったというパターンです。この対策として有効なのが、静岡県立伊豆総合高等学校が採用している「生徒が主役になるシステム」です。同校では生徒会活動に清掃活動を組み込むことで、活動を長く続けることが可能となりました。先輩から後輩へ活動趣旨やノウハウが引き継がれるため、主軸メンバーが卒業しても活動は継続されます。特に生徒会は「学校を良くするために頑張りたい、誰かのために何かしたい」という意欲を持った生徒が集まる傾向が高いため、学校内でもリーダーシップを発揮しやすいのだとか。「高校生は、先輩のやることを見て覚えて動くのが基本です。学校の文化・伝統として昇華させるためにも、書面での引き継ぎ大切も伝えたいですね」と飯倉さん。第100回に向けて毎回進化を続ける修善寺大掃除は、静岡県立伊豆総合高等学校の伝統となりつつあるようです。
静岡県立伊豆総合高校
http://www.edu.pref.shizuoka.jp/izusogo-h/home.nsf/IndexFormView?OpenView
NPOサプライズ
https://www.surprizu2012.jp/