2016年12月
独立行政法人国際協力機構(JICA)は、日本の政府開発援助(ODA)を一元的に行う実施機関として、開発途上国への国際協力を行っています。日本も長引く景気の低迷や少子高齢化などさまざまな課題を抱えていますが、現代の世界はひどく混迷しています。紛争や過激主義、貧困や格差、感染症や自然災害など、さまざまな課題が地球上の多くの人々の命と尊厳を脅かしています。私たちが日本で、平和で安定した暮らしを送るには、世界が平和で安定することが必要不可欠です。戦後短期間で復興を遂げた経験や世界屈指の技術力を、世界の貧困削減や経済成長に活用し国際協力を進めています。
JICAでは日本政府・地方自治体・民間企業・市民社会・大学や研究機関などさまざまな機関の協力を得て活動をしています。すべての人々が恩恵を受けるダイナミックな開発をめざし、開発途上国が抱える課題解決に向けて援助しています。民間連携によるインフラ整備や、ボランティア派遣による現地での支援がよく知られておりますが、現地の方々を日本に招き、日本で現地研修をしながらソフト面の情報提供を行う国際支援も行っています。
開発途上国では急速な経済発展に伴い、自動車交通需要が高まりつつあります。増大する需要に対応するため道路整備が急ピッチで勧められている一方、道路インフラを損傷や老朽化から守るための予防的・効果的な維持管理は行われていません。そこでJICAでは日本の技術・地検.経験を生かした効率的な維持管理計画の策定に関する研修を実施するため、研修員を日本に招きA課題別研修「道路維持管理」を実施しました。参加国はウガンダ、エチオピア、ブルキナファソ、マラウィ、モザンビーグ、リベリア、ルワンダなど計10か国。参加者は17名で、全員、自国で道路の維持管理業務などにあたっています。研修期間は2016年10月30日(日)~12月10日(土)の約1カ月。そのうちの2日間が、日本のアダプト制度の視察に当てられました。
11月11日(金)には、NPO法人ひろしまアダプトが「アダプト制度」について講演しました。同法人は2007年、広島県のアダプト活動団体を支援し、行政と団体の連携を支援する中間支援組織です。大森富士子副理事長は「自分たちが使う道路は、自分たちがきれいにする」という、アダプト制度の基本理念について説明。研修員の方々は「自分たちで使う場所を、自分たちで清掃するというのはすばらしい制度」「ぜひ自国でも採用したい」との感想を述べる一方、「清掃の仕事をしている人もいる。ボランティア清掃は、その人たちから仕事を奪うことになるのでは?」という疑問も持ったようでした。
11月13日(日)は、総長14kmのドライブコースで「グリーンライン」と呼ばれる県道251号線の清掃・緑化活動を行っている「グリーンラインを愛する会(福山市)」にて、研修員の方々がマイロード活動を視察しました。当日は汗ばむほどの陽気でしたが、アフリカ各国出身の研修員の方々には、寒かった様子。みなさん、ダウンジャケットに手袋という防寒対策をして、活動場所である後山園公園に集合されました。到着後は、丸山理事長が、グリーンラインを愛する会の発足背景や活動内容を紹介。その後、路側の草刈り作業の視察に移りました。「通行する車に注意すること」「草刈機の操作にも安全装備が必要なこと」を説明した後、研修員の方々にも加わっていただき、草刈り作業を行いました。日本独自の清掃用具である「熊手」に興味を持つ人が多く、素材や作り方を質問する人も。「エチオピアには竹がないが、他の物で代用すれば自国でも作れるかもしれない」と、熊手を写真に収める研修員もいました。
草刈り作業の次は、トイレ掃除の見学です。日本の公衆トイレは無料ですが、海外の公衆トイレは使用料を払うのが一般的。利用者が支払ったお金を、トイレの維持管理に当てるという流れが浸透しています。「ブルンジにも公衆トイレがあるが、それぞれのトイレに清掃管理者がいる。みんな仕事としてトイレを清掃しているので、利用者が清掃するという意識はない」という研修員もいました。行政が管理するトイレを行政が指定した清掃管理者が掃除するシステムが多いため、無償でトイレ掃除を行うのは意外だったようです。「日本の教育はすばらしい。リベリアでは『自分たちも利用するトイレだから綺麗に使おう』という教育は行っていない。この考え方が浸透するには、時間がかかりそうだ」と話す研修員もいました。最後に「平和の桜」とも呼ばれる桜・「陽光」を植樹し、展望台から瀬戸内海国立公園を眺望して解散となりました。
開発途上国でもボランティア活動は盛んに行われています。しかし、国によっては生命維持に関わる活動(医療ボランティアなど)がメインで、清掃ボランティアの優先順位は低い傾向にあります。アフリカ各国では「清掃=仕事」であり、清掃の仕事で生計を立てている人が多くいます。無償労働となるボランティアを行えるほど、金銭的にも精神的にも余裕がなく、「まずは子どもたちに、自分たちが使う場所なのだから、自分たちできれいにしよう。汚さないように使おうという意識を持ってもらうことが重要。しかし、そこまで教育するには、時間がかかるだろう」という意見もありました。政情が不安定で国家的にも豊かでない国では、日本式のボランティアが根付くには時間がかかるかもしれません。「平和な国で国民同士がまとまって活動できるのは、非常にすばらしいことだと思う。イランは民族紛争が激しくいので、せっかく道路を整備しても政権が交代すればすぐに爆弾で壊されてしまう」という、研修員の方のつぶやきが印象的でした。
開発途上国に出向いての技術提供や道路の共同整備など、ハード面の支援は非常に重要です。それに加えて、開発途上国の方に来日していただき、日本人と交流する中でアダプト制度や日本人の考え方といったソフト面の情報を提供するといった支援方法も、今後は重要になるのではないでしょうか。