2024年8月
ポイ捨てアートとは、拾ったゴミを素材にしたアート活動のこと。ペットボトルのキャップやタバコの吸殻、プラスチック容器やお菓子の空袋など、捨てられていたゴミがユニークな作品に生まれ変わります。
想像力とアイデアでさまざまな作品を生み出すことができるため、小さい子どもから大人まで幅広い世代が取り組めます。
「とりでポイ捨てアート」の隊長・松井朱美さんがポイ捨てアートのことを知ったのは、今から3年ほど前のことでした。松井さんの趣味は野鳥観察。利根川河川敷で野鳥を観察していると、ゴミの多さが目についたと言います。利根川河川敷にはヒバリやオオヨシキリ、カワセミなどたくさんの野鳥が生息しており、捨てられたゴミをエサと間違えて食べたら命に関わります。野鳥を守るためにゴミを拾い始めたのですが、最初は「どうしてここにゴミを捨てるの?」とモヤモヤが膨らみました。イライラしながらのゴミ拾いは楽しくなく、続けられなかったそうです。
「ネガティブな気持ちはネガディブな結果しか生まない。どうすればポジティブな気持ちでゴミ拾いができるだろう」と考えていたときに出会ったのが、「世界ポイ捨て吸い殻アート協会」の写真でした。
捨てられた吸殻が、文字や絵に生まれ変わるのを見た松井さんは、「これならポジティブに取り組める」と思ったそうです。そこで2020年12月、4人の仲間と利根川河川敷で「とりでポイ捨てアート」の活動を始めました。
とりでポイ捨てアートは、毎月1回午前中に行います。参加メンバーは子ども~70代までと幅広いですが、目立つのは小さい子どもを連れた若い親。
誰でも気軽にできるゴミ拾いは、「環境に良いことをしたい」と考えている人にも取り組みやすいようです。SNSで発信された活動内容を見て、「おもしろそう!やってみたい!」と参加する子どもも増えています。
利根川河川敷展望台に集合したら、まずはみんなでゴミ拾い。車道沿いの草むらには車から投げ捨てられたゴミ袋、駐車場周辺には空き缶やペットボトル、お菓子の空袋などが目立ちます。特に夏場は斜面や車道沿いの草が伸びてゴミが見えにくくなるので、ポイ捨てが増えるのだとか。
子どもたちは草をかきわけてゴミを探し、見つけるたびに「あったー!」と歓声をあげていました。
利根川は水量が多く、増水時には河川敷一面が水に浸かります
茂った草をかき分けて、ゴミを探します
交通量の多い道路沿いを中心にゴミ拾い
小学校低学年の子どもを連れて参加する親御さんも多くいます
草が茂っている場所はゴミが見えにくいので、探しがいがあります
1時間ほどゴミ拾いをしたら、拾ったゴミを持ち寄ってアート作品を作ります。
ペットボトルのキャップやタバコの吸殻を並べれば、顔や花、ロケットなどのアートが誕生。特に子どもたちは想像力が豊かで、次々と作品を生み出していきます。
一通り作り終えたら作品を撮影し、可燃・不燃にそれぞれ分別。
以前は各家庭に持ち帰っていましたが、活動に賛同してくれる施設の協力により指定の場所に持ち込めば一緒に処分してくれるようになりました。ゴミを拾って街をきれいにし、アート作品を作って楽しみ、分別についても学べる。1回で3度おいしく、みんなが楽しく笑顔になる活動です。
利根川河川敷は増水すると水に浸かり、捨てられていたゴミは全部海に流れてしまいます。海に流れたゴミはいずれマイクロプラスチックになり、生態系を壊す原因になるかもしれません。陸にあるゴミを拾うことが、海のゴミを減らすことにつながると知ってもらうのも、この活動のポイントなのだそうです。
素材になりそうなものをたくさん見つけました
何を作ろうか考え中。次々とアイデアが生まれます
何を作ろうか考え中。次々とアイデアが生まれます
作品名「顔」
作品名「かき氷」
作品名「お昼寝をしている人」
作品名「お花」
活動を始めたばかりの利根川河川敷は、不法投棄された家電や車から投げ捨てられたゴミが多く、集めたゴミが10袋ほどになることもありました。しかし活動を続けているうちに徐々に減り、現在では不法投棄はほぼ見なくなり、ゴミの量も以前の半分ほどになっています。
日常生活でも、可燃ゴミ・不燃ゴミ・リサイクルプラなどを意識するようになったのだとか。「知らなければ無意識のうちに捨ててしまいますが、知っていればリサイクルすることができます。まずは知ることが大事。ただ、興味もないのに知ろうとは思わないですよね。ポイ捨てアートに興味を持ってもらうことで、自分たちの出すゴミについて考える第一歩に繋がればいいと考えています」と松井さんは語ります。
活動を継続するうえで重要なのは、好きなことを楽しい気持ちで行うこと。普通にゴミ拾いをしていたときは「どうして、こんなゴミが落ちているんだ!」「なぜ捨てたんだ」と、ゴミを見つけるたびにイライラし、続けることができませんでした。しかしポイ捨てアートをするようになってからは、ゴミが素材に見えて楽しくなりました。休みの日の朝早く起きるのは辛いなと感じても、楽しいことのためなら頑張れます。楽しい気持ちで活動をしていれば笑顔になり、笑顔で活動している人を見ると周囲の人は「楽しそうだな」と感じます。楽しそうな活動には人が集まり、仲間が増えて趣旨も浸透します。怒りが原動力になることもありますが、怒り続けるのは疲れるし長続きしません。楽しい・うれしい・おもしろいといったポジティブな感情は、いずれポジティブな結果を生みます。
とりでポイ捨てアートの活動は、ゴミをただ嫌なもの・邪魔なものとして処理をするのではなく、捨てられてしまった物たち(ゴミ)にも感謝の言葉を伝えて締めくくります。
2024年3月、松井さんたちは自分たちの活動趣旨を伝える絵本を作成しました。ポイ捨てされたゴミは、ゴミとして生まれてきたわけではありません。もともと「人の役に立つため」に作られ、必要とされていたのです。ではなぜ捨てられたのでしょう?本当に「もう使えない、邪魔なもの」なのでしょうか…。ゴミとリサイクルについて考える絵本は小学校に配布され、「リサイクルについて考える学習教材」として取り入れられています。
芸術活動が盛んな取手市には「アートで地域を盛り上げよう」という機運があり、地域活動も盛ん。地域団体が主催するギャラリーで「ポイ捨てアート」の写真を展示し、その展示をみた人が「楽しそうだから自分もやってみたい」と参加したこともあるそうです。活動告知にはインスタグラムとフェイスブックを使っていますが、SNSは関心のある人の目にしか止まりません。
また中学生や高校生、大学生の参加が少なく、10代の若者にどのようにPRしていくかが今後の課題となっています。SNSに慣れていない高齢者にも活動を知ってもらうため、地域の商店街にチラシを置いてもらったり、市の広報で活動日をお知らせするなど、さまざまなアピール方法を検討中。「1人でも気軽に参加し、仲間づくりもできるコミュニティ」の創出を目指します。
活動趣旨を伝えるため、2024年3月に小冊子(絵本)を発行しました
活動趣旨を伝えるため、2024年3月に小冊子(絵本)を発行しました
活動趣旨を伝えるため、2024年3月に小冊子(絵本)を発行しました