兵庫県尼崎市立成良中学校
受賞時(2011年度)の活動概要
工業中心都市として発展を遂げてきた尼崎は、長きにわたり公害問題と対峙してきた。その解決に向けた住民や行政の熱心な取り組みに生徒が共感したのが契機となり、2004年から環境美化活動を開始。「尼崎シーブループロジェクト」と銘打ち、運河や海を舞台に産官学民連携で実施している。空き缶などのポイ捨てごみの回収はもとより、水中ヘドロの要因となる貝や藻類を回収してそれを堆肥にしたり、育てたワカメで海藻堆肥にしたりして、街の花壇や畑に利用。環境改善につながる取り組みを多角的に展開したことで、自分たちの生活に生かす循環型社会構造が誕生した。地域を流れる庄下川でも、その堆肥を使った緑化活動や清掃活動を行い、これらの成果は環境フォーラム等で発表、市内外に賛同の輪が広がっている。
受賞から8年後
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2019年現在の活動状況
受賞から8年を経た現在、運河を拠点にした環境美化活動はさらに広がりを見せている(写真①)。年間約20回にわたり、同校の中学生や卒業生らが集まり、「ネイチャークラブ」として運河の水質浄化(写真②)、環境改善に向けた取り組みに注力。参加人数が徐々に増え、認知度もアップしている。地域との連携も深まり、生徒はきれいになった運河の魅力を発信しようと、「キャナルガイド養成講座」に参加(写真③)。ガイド資格を取得する生徒も出始めた。国際会議では自分たちの取り組みを英語でスピーチするなど、環境美化を入り口に、命のつながりを実感しながら豊かな心を育み、知識が着実に身につく深い学びへと発展。
鳥の巣箱と運河。このふたつが美化活動を促す重要な環境バロメーターだ。野鳥が営巣した巣材は以前、プラスチックごみが多く使用されていたが、美化活動開始後は、枯れ草などの自然素材が使われるようになり、孵化率が大幅に向上している。運河や川沿いでは、ポイ捨てごみを積極的に回収したり、運河の水質浄化システムを設置したりするなど、水辺の環境づくりに取り組んだ結果、人と自然が共生する場所に生まれ変わってきた(写真④)。
開始当初から進めてきた徳島大学や尼崎小田高等学校との連携は、代々の卒業生が加わることでさらに絆が深まっている(写真⑤)。県や市などの自治体、数10社に及ぶ企業からの協力も得られるなど、学校以外の横のつながりが構築された。現在は、口コミで他の中学校や小学校からの参加者も増えている。
産官学民連携で取り組む環境改善活動は、着々と実を結んでいる。運河に続き今度は、尼崎市下水処理施設内において人工干潟をつくり、アサリを育てながら多様な生き物と共生し合えるまちづくり事業を行う予定。理想の環境で真の持続可能な社会を一丸となって取り組む決意だ。
環境美化活動に関わる人たちの声
現在フィレンツェに留学中。語学を学びながら、イタリアの環境・野生動物保護団体「LIPU」のインターンシップに参加。主に、水辺の環境保護活動や環境教育活動に携わっている。
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部活で尼崎市内の運河を訪れた時、運河の水深のうち半分を占めているヘドロを初めて見ました。想像以上に真っ黒で異臭を放つヘドロは本当に衝撃的なもので、あれを見て驚かない中学生はいないだろうな、と今でも思います(笑)。運河がいかに汚れているかを実感するのにヘドロは効果てき面で、“なんとかしないと”と活動初回にして感じたことが強く印象に残っています。
私はもともと友達付き合いが得意でなく、人とのコミュニケーションに苦手意識を持っていました。中学生になってもその性格は変わることなく、おとなしく学校生活を過ごしていました。
部活で環境活動に関わるようになったある日のこと、部活顧問だった先生にふと「学校でもそんな風にしてたらいいのに」と言われました。「そんな風?」と自分自身を振り返った時、環境活動をしている時は、周りを意識し過ぎずに、ありのままの自分でいられたことにハッと気づきました。あの瞬間は今でもはっきりと覚えています。そして、その言葉がきっかけで、私は自分に少し自信を持ち、人とつながることがだんだん好きになっていきました。
自然環境に触れる時、人はありのままの自分に気づき、最も自然な状態でいられると思います。環境活動は、環境のことを考えさせられるだけでなく、そうした本質的な人の在り方を知り、自己肯定感をも得ることのできる価値のある活動だと実感しています。
私は成良中学校の尼崎運河の活動を通して、水辺のまちづくりに興味を持ちました。今、留学しているフィレンツェを州都とするトスカーナ州にはアルノ川という大きな川が流れています。過去に氾濫による災害被害から何度も復興した歴史を有する地域ですが、フィレンツェがその水辺をいかに活用、共存しているかを自分の目で確かめ学びたいと思ったのが留学の動機です。
私の将来の夢は、子ども達に自分が育った街がここでよかった、と自分の街に誇りを持てるようなまちづくりをすることです。
中学からの環境活動を通して、私は“本当に価値のあることは何なのか”を考えるようになりました。それは、お金を使って贅沢をすることではなく、「人と出会って交流すること」、「その土地でとれる新鮮な食べ物をいただくこと」、「地域の文化遺産を観ること・体験すること」だと思うのです。そして価値のあるものに気づくことができた時、人は「幸せだ」と感じるのではないでしょうか。
私は、今とても幸せです。それは、イタリア留学で様々な人と出会い、文化の違いを知り、街ならではの郷土料理を味わうことができているからです。
現在さまざまなものが発展した社会の中で、日本を含め多くの都市は均一化し、自然は減少し、若者が自然にアクセスする回数は減り、私たちの視野はどんどん狭くなっていると感じます。子ども達には、自然に触れる機会を増やし、自分たちの街の良さを見つけ守っていく大切さや、そこでしか得られないものを感じる喜びを味わって欲しいです。それが、持続可能なまちづくりの一歩でもあると思います。そしてこのまちづくりを通して、私の感じた価値のあることを、本当の幸せを、次の世代の子ども達に伝えていくことができればと思っています。
母校での環境活動すべてが、私の考え方、生き方を変えてくれました。
あの活動、先生からの一言がなければ、今の私はいなかったと思います。
自分たちの行っている環境活動が、いろんな人にいろんな場所で認められて、生徒たちは自信を深めています。そして、大学生や高校生、企業の人たちと連携しながら取り組むことで横のつながりができて、人とつながる大切さを学ぶことができました。いいことをしていたら必ずいい人に出会えるし、「ありがとう」という感謝の言葉で締めくくれる活動は、やっていて心地良く楽しくて、それが持続につながることを痛感しています。
一方で、この取り組みをしたからといってポイ捨てごみがすぐに減少するわけではありません。が、生徒がなんとかしたいという気持ちが芽生えることこそが大事だと考えています。長らく私たちの生活を支えてきた運河に最高の恩返しが出来るように、これからも横のつながりを生かして取り組んでいきます。
新井「自分が住む街に運河があることを、ネイチャークラブに入部して初めて知りました。現在の運河は魚や野鳥の姿が見られ、環境がだんだん改善されていくのがうれしいです。この取り組みは、地域のためにやっている活動ですが、実は自分自信にとても役立っていることだと感じています」
森「ネイチャークラブの活動を通じて、植物栽培の大変さを身をもって知りましたが、やりがいがあることもわかり、今後は実際に植物の研究をしてみたいです。また、環境活動では多くの人に伝えないと変わっていかないことも学んだので、これから広く発信していきたいです」
氏本「大学生や高校生などいろんな人たちと関わり、意見交換することでコミュニケーション力が高まり、大きな会場でも自分の意見を堂々と発言出来るようになりました。後輩には、知らないことを自分で見つけていく楽しさをいっぱい体験してほしいです」
大学生は研究に従事することで知識や能力が身につくといいますが、中学生といっしょに活動することで、いっそう学びが深まっています。たとえば、難しい言葉や仕組みを中学生に理解してもらうには、かみ砕いた説明が必要ですが、これは物事を理解していないとできません。彼らとの協働作業は自分自身にもいい刺激をもたらしてくれるので、とてもやりがいがあります。
文科省指定スーパーサイエンスハイスクール(SSH)の研究推進校として、尼崎の運河や大阪湾についてさまざまな研究をしています。最初は、それぞれの学校がバラバラに活動していましたが、市が立ち上げた尼崎運河再生プロジェクトにより、産官学民が連携することで幅広い研究活動が可能になりました。高校生にとっても大きなメリットを実感しています。
当初は生徒指導の側面から環境教育活動を始めましたが、つながる命の循環を学ぶことで生徒の心が育まれ、落ち着いた環境で学校生活が送れるようになりました。現在は、学校単体では活動することが難しく、地域の方々の支援を受けて続いている状況ですが、ネイチャークラブの生徒が活動の成果をさまざまな場所で発表し、学校全体に好影響を与えています。
兵庫県尼崎市立成良中学校
住所:兵庫県尼崎市西長洲町2-33-22
電話:06-6482-3081
全校児童数:457名
アクセス:阪神尼崎駅より徒歩約5分