審査委員長
東京学芸大学名誉教授
小澤 紀美子 氏
最優秀賞に輝いた児童・生徒の皆さん、学校関係者の皆様、受賞おめでとうございます。
審査員を代表して、講評を述べさせていただきます。まず、審査のプロセスを申し上げますと、次の4つの評価基準に照らして審査員一同、忌憚のない意見交換を行い進めてまいりました。
1つ目の基準は、独創的に取り組み、継続的に進めていることです。2つ目は、活動の内容が客観的事実に基づいて、実践的な学びと結びついていることです。このことはとても大事で、小さな体験の積み重ねがないと、後に経験化していくきっかけにならないと私自身考えています。3番目は、地域社会と連携していることです。そして4番目は、活動の広がりです。ただ単に容器をリデュース・リサイクルするだけではなく、学びが広がり深まっていることが重要で、こうした視点から評価を行いました。
2020年から教育課程が大きく変わりました。子どもにとって学ぶということは、環境や人とのつながり、命とのつながり、そしてハード面のつながりを含め、すべてが成長の糧になります。混沌とした不確実性の高い社会の今、持続可能な社会の創り手になる人材を育成する学びが重要で、意識の変容や行動の変容が求められています。さらに教育課程は、「何を理解しているか、何ができるか」「未知の状況においても対応力、判断力、表現力などを育む」「学んだことを人生や社会に生かそうとする学びに向かう力、人間性などの涵養」を求めて、大きく変革の視点が示されています。
文部科学省の委員として、「総合的な学習の時間」の創設にかかわってきた私は、時を経てこうした学びがどのように発展していくかということをずっと注目しており、やがては実を結んでくれることを期待しておりました。本日の表彰式では、皆さんが活動する映像を見せていただきながら、素晴らしい取り組みに感動すると同時に、着実に教育の成果が表れているなと手ごたえを感じた次第です。
受賞された学校の評価の観点をまとめてみますと次のようになります。
文部科学大臣賞に輝いた「秋田県大仙市立大曲南中学校」は、「考え、行動する環境教育」の目標のもと、各教科のつながりと体験型活動を意識した取り組みにより、生徒の意識変容や行動変容を促す「学び」が根付いていました。
農林水産大臣賞の「青森県蓬田村立蓬田中学校」は、地場産業への視点を明確にして「水資源管理の重要性」を通して環境保全活動に取り組み、地域の小学校や大人の方々との連携により将来への視点も育んでいます。
環境大臣賞の「埼玉県川口市立安行小学校」は、学習活動の入口は牛乳パックや古紙リサイクルですが、牛乳パックの洗浄の仕方を工夫して水資源を大切にするだけでなく、「自然の中の大きな循環」を視点にした「いのちの循環」に結びつけました。
さらに、校内環境通貨「くすのきチケット」を作って経済的な仕組みも学び、他県の小学校とのオンラインによる交流などにより、学びの広がりを共有するなど「深い学び」につながっていました。
協会会長賞の「鹿児島県与論町立茶花小学校」は、地域資源の「海」を通して学ぶ『ゆんぬ学』により、地域住民との交流にとどまらず、海の向こうの世界との「つながり」へ視野を広げる独自性の高い学びに取り組んでいました。
こうした取り組みから読み取れることは、学校という閉じられた空間だけで児童生徒は学んでいるのではないということです。
先に述べた4つの視点に加え、あらためて、児童生徒は地域とのつながりを実感しながら自己肯定感を高め、自己を確立していること、地域が「屋根のない学校」として機能していることが重要だと再認識しました。さらに、各校の取り組みは、国の方針の「地域循環共生圏構想」が視野に入っており、森・里・川・海の循環による地域の特性を生かした「共創」への取り組みを通して、well-beingに生きられる地域社会へ向かっていることを実感しました。このことは、児童生徒の活動や学びが環境教育にとどまらず、持続可能性に向けての学びと実践を通してSDGsに貢献しているといえるのではないでしょうか。子どもたちが明るく健康的に学ぶことは、私たちの未来への光であり、希望そのものです。今回、応募書類を読むことを通して、各審査委員と意見交換しながら進める至福の時間が持てたことに感謝を申し上げます。